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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(オ)942号 判決 1985年11月29日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人原山恵子の上告理由第一について

民法五五〇条が書面によらない贈与を取り消しうるものとした趣旨は、贈与者が軽率に贈与することを予防し、かつ、贈与の意思を明確にすることを期するためであるから、贈与が書面によつてされたといえるためには、贈与の意思表示自体が書面によつていることを必要としないことはもちろん、書面が贈与の当事者間で作成されたこと、又は書面に無償の趣旨の文言が記載されていることも必要とせず、書面に贈与がされたことを確実に看取しうる程度の記載があれば足りるものと解すべきである。これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実によれば、上告人らの被相続人である亡杉浦秋太郎は、昭和四二年四月三日被上告人に岡崎市稲熊町字大岩二番六宅地一六五・六〇平方メートルを贈与したが、前主である板倉岩一からまだ所有権移転登記を経由していなかつたことから、被上告人に対し贈与に基づく所有権移転登記をすることができなかつたため、同日のうちに、司法書士松岡兼喜知に依頼して、右土地を被上告人に譲渡したから板倉から被上告人に対し直接所有権移転登記をするよう求めた板倉宛ての内容証明郵便による書面を作成し、これを差し出した、というのであり、右の書面は、単なる第三者に宛てた書面ではなく、贈与の履行を目的として、亡秋太郎に所有権移転登記義務を負う板倉に対し、中間者である亡秋太郎を省略して直接被上告人に所有権移転登記をすることについて、同意し、かつ、指図した書面であつて、その作成の動機・経緯、方式及び記載文言に照らして考えるならば、贈与者である亡杉浦秋太郎の慎重な意思決定に基づいて作成され、かつ、贈与の意思を確実に看取しうる書面というのに欠けるところはなく、民法五五〇条にいう書面に当たるものと解するのが相当である。論旨は、右と異なる見解に基づき原判決の違法をいうか、又は原審の認定にそわない事実を前提として原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を論難するか、又は原判決を正解しないでその違法をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧 圭次 裁判官 木下忠良 裁判官 大橋 進 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭)

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